一度決めると原則1年間変えられない役員報酬。節税だけで決めると、社会保険料と銀行評価で思わぬ損をします。報酬設計に必要な4つの視点を整理しました。
なぜ「今」考えるべきなのか
役員報酬は、毎月同額を支給する「定期同額給与」でなければ損金(経費)になりません(法人税法34条)。改定が認められるのは原則、事業年度開始から3ヶ月以内の年1回だけです。たとえば3月決算なら期限は6月末。期中に増額しても増額分は損金にならず、個人側の税金と社会保険料だけが増える、最も損な形になります。
報酬額を決める4つの視点
「いくらが正解か」に万能の答えはありませんが、判断の軸は明確です。次の4つの視点で自社の報酬額を点検してみてください。
報酬を上げれば法人税は減りますが、個人の所得税・住民税は累進で増えます。下げればその逆です。重要なのは納税額の最小化ではなく、法人と個人を合算した「手取り絶対額」の最大化。「税金を払いたくない」だけで報酬を低く抑えるのは、個人資産が育たず経営の選択肢を狭める罠です。まずは報酬額3パターンほどで、法人・個人トータルの手取りを試算してみてください。
所得税と違い、社会保険料には上限があります。厚生年金は標準報酬月額65万円(報酬月額63.5万円以上)、健康保険は139万円(同135.5万円以上)で保険料が固定され、それを超える部分にはかかりません。つまり報酬が高いほど、報酬総額に対する社会保険料の比率はむしろ下がります。なお厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引き上げが決まっており、高額報酬の設計は将来の負担増の織り込みが必要です。改定で等級が大きく変わる場合は月額変更届もお忘れなく。
役員報酬を上げた分だけ、営業利益は減ります。融資を受ける予定があるなら、決算書の見栄えは死活問題です。銀行は格付けの起点を利益に置くため、報酬の取りすぎで赤字スレスレになった決算書は、実質黒字でも余計な説明コストがかかります。増額するなら、来期の利益計画と借入予定をセットで確認してから。迷ったら「営業利益を死守できる範囲」が目安です。
最終判断の軸は出口戦略です。売却と承継では正解が真逆になります。M&Aで売却するなら、利益を法人に残して純資産を厚くするほど売却価格は上がります。一方、子や親族への承継では、株価が上がるほど自社株にかかる相続税・贈与税が膨らむため、報酬や退職金で利益を個人に移し、株価を抑える設計が定石です。いずれの場合も「固定費6ヶ月分」の現預金確保が絶対条件です。
まとめ──役員報酬は「経営判断」そのもの
役員報酬は、税金・社会保険・銀行評価・出口戦略が交差する経営判断です。「税理士に任せているから大丈夫」で終わらせず、すべての軸を同じテーブルに載せて決める。その違いが、数年後の手取りと会社の体力に大きな差をつけます。
役員報酬の設計や財務戦略でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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