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財務 × 資金繰り

無借金経営は、本当に安全か

2026年9月11日荒井 成也(財務コンサルタント)

「うちは無借金です」と誇る社長は多いです。借金がないのは立派なことですが、当社はその会社の現預金を見てから返事をします。手元資金が固定費の2か月分しかない無借金は、危機に弱い状態だからです。

この記事では、無借金経営の何が強くて何が弱いのか、そして当社が目標に置く「実質無借金」について書きます。

無借金の弱さ:売上が止まったとき、時間がない

当社は手元資金の目標を「固定費の6か月分」に置いています。売上がゼロになっても半年は会社が持つ、という防衛線です。無借金でこの水準を持っている会社は、本当に強い。問題は、無借金で手元資金も薄い会社です。

借入なし・現預金は固定費の8か月分:売上が止まっても8か月は持つ。借入もできる。最も強い状態
借入なし・現預金は固定費の2か月分:売上が2か月止まれば詰まる。そのとき初めて銀行に行っても、業績が落ちた決算書では貸してもらえない。「無借金」が、危機のときに一番弱い

借入は、利息を払って「時間」を買う行為です。利息1.5%で1,000万円を借りれば年15万円。その15万円で、売上が止まったときに半年の時間が買える。手元資金が薄い会社にとって、この保険は安いです。

「借りない」と「借りられない」は別物

銀行が貸すのは、業績が良く、返済能力のある会社です。無借金で借入の実績もない会社は、銀行から見ると「返済の実績がない会社」でもあります。いざ必要になったとき、初めての取引を、業績が落ちた決算書で始めることになります。

業績が良いときに、小さく借りて、きちんと返す。この実績が、銀行との信用になります。「借りられる会社が、選んで借りていない」のと、「借りたくても借りられない」のは、決算書の上では同じ無借金でも、まったく違う状態です。

借入余力の目安を知っておく

借入余力 ≒ (税引後利益 + 減価償却費)× 10 − 現在の借入残高

銀行が「返せる」と見る目安は、毎年のキャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)で10年以内に返せる額です。税引後利益300万円・減価償却100万円なら、借入余力は約4,000万円。

この数字を知っていれば、「借りられるが借りていない」ことを自分で確認でき、必要なときにいくらまで頼めるかもわかります(借入の適正額の記事)。

目標は「借入ゼロ」ではなく「実質無借金」

当社が中小企業に勧めるのは、借入をゼロにすることではなく、現預金が借入残高以上ある状態=実質無借金です。

「利息がもったいないから返す」は、手元資金が固定費6か月分を十分に超えてからの話です。それより前に返すと、防衛線が薄くなります。

借りるタイミング:晴れの日に

借入は、必要になってから申し込むものではありません。業績が良い決算書が出たとき、設備投資や採用の計画があるとき、あるいは何もなくても手元資金を厚くする目的で、銀行に相談します。銀行も、業績の良い会社には貸したい。そのときの条件が、その会社の最も良い条件です。

個人保証や担保を付けずに借りる制度も増えています(無担保・無保証で借りる3つのルート、経営者保証を外す条件)。「借金=社長個人のリスク」という時代の前提も変わっています。

まとめ

  1. 01
    現預金を固定費の月数で見る6か月分が防衛線。無借金でもここに届いていなければ弱い。
  2. 02
    借入余力を計算しておく(税引後利益+減価償却)×10−借入残高。「借りられる」ことを自分で確認する。
  3. 03
    目標は実質無借金現預金≧借入。利息は時間の保険料。繰上返済は防衛線を超えてから。
  4. 04
    晴れの日に借りる業績の良い決算書が出たときが、最も良い条件で借りられるとき。

「手元資金=固定費の6か月分」「借入余力=(税引後利益+減価償却費)×10−借入残高」は当社の財務基準です。業種(在庫や売掛金の重さ)によって必要な手元資金は変わります。

決算書と直近の残高から、手元資金の月数・借入余力・実質無借金までの距離を出します。「借りるべきか、返すべきか」を数字で判断できます。

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