「人件費が高い」と感じたとき、多くの経営者はまず頭数を削ることを考えます。しかし実際には、人件費の「使い方」を間違えることが財務の悪化を招いているケースが少なくありません。財務と人事を切り離さずに見るための、3つの数字を整理します。
「人件費は削るもの」という誤解
財務と人事は、一見別々の話に見えます。しかし現場で見ていると、この2つを切り離して考えている会社ほど、気づかないうちに利益を削り取られています。人件費は単なるコストではなく、使い方しだいで利益を生む投資にもなります。まずは自社の状態を、次の3つの数字で点検してみてください。
押さえるべき3つの数字
年間の粗利(売上総利益)を社員数で割った数字です。目安は1人あたり1,000万円。これが低すぎると、人件費を差し引いたあとに利益が残りにくい構造になります。1人あたり粗利500万円で人件費が400万円なら、残るのは100万円。そこから家賃・経費を引けば利益はほぼゼロです。「粗利が低い」と感じるなら、頭数を増やす前にこの数字を計算し、まず単価アップや粗利率の高い業務への集中を検討してください。
「辞めてもらえば人件費が減る」と考える前に、離職そのもののコストを把握しておく必要があります。1人あたり概算で約390万円とも言われています。
| 項目 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 採用コスト | 求人広告費・人材紹介料など | 約180万円 |
| 教育コスト | 研修・OJT・マニュアル整備など | 約60万円 |
| 生産性ロス | 引継ぎ期間の業務停滞・周囲のフォロー | 約150万円 |
| 合計 | 約390万円 |
年5人の離職なら試算は約1,950万円。最もコストパフォーマンスが高い対策は「入社後3ヶ月以内の定着強化」です。採用費を増やすより先に、定着率を1%改善することを考えてみてください。
計算式は人件費 ÷ 粗利 × 100。サービス業では60〜75%が一般的な目安ですが、70%を超えると、売上が少し落ちただけ・社会保険料が上がっただけで赤字に転落するリスクが高まります。高止まりしたまま賃上げをすると、粗利を増やさない限り営業利益を圧迫します。営業利益は銀行が融資を判断するときに重視する指標。ここが下がると格付けにも影響します。下げたいなら人件費を削る前に、値上げ・付加価値向上・業務効率化で「粗利を増やす手段」を先に探してください。
人事制度は「財務戦略」として設計する
社員1人あたり粗利・離職コスト・労働分配率──どれも財務と人事が交差するポイントです。人事制度や処遇設計は「社員が喜ぶか」だけでなく、「自社の収益構造を壊さないか」という財務の視点から設計する必要があります。
人的資本ROI =(売上 − 人件費以外の経費)÷ 人件費 − 1
この数字が毎期上がっていれば、人への投資が利益につながっている状態。横ばい・下落が続くなら構造的な見直しのサインです。
財務と人事を別々の専門家に丸投げしていると、この視点が抜け落ちがちです。月次の数字を見るとき、人件費の「使い方」も一緒に振り返る習慣が、経営の土台を安定させます。
まとめ
人件費は「削る」対象ではなく、「守り、活かす」対象です。頭数を減らす前に3つの数字を確認するだけで、打つべき手の順番が変わります。労務と財務をまたいで見られるかどうかが、数年後の利益に差をつけます。
人件費・労働分配率と財務のバランスでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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