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役員借入金は、銀行にプラス、相続にマイナス

2026年10月7日荒井 成也(財務コンサルタント)

決算書に「役員借入金」や「短期借入金」として、社長個人から会社に入れたお金が残っていませんか。中小企業ではごく普通のことです。ただ、このお金は銀行から見るとプラスの材料なのに、相続では額面のまま財産として残ります。

資金繰りが詰まった月に社長の預金から立て替えた。赤字の年に役員報酬を受け取らず、未払いのまま積み上がった。どれもよくある話です。同じ一つの残高が、片方ではプラス、片方ではマイナスに働く。この記事では、経営者が押さえておきたい3つのポイントを書きます。

ポイント1:銀行は「返さなくていい借金」として見ている

社長からの借入には、期限も金利の取り決めも実質的にありません。会社が苦しいときに返済を迫られる性質のものではないからです。

銀行は決算書の数字をそのまま使わず、実態に合わせて組み替えて評価します。その過程で、役員借入金は負債から差し引き、自己資本に足して見るのが実務です(銀行は決算書をそのまま読んでいない)。

決算書のまま:自己資本500万円・総資産1億円=自己資本比率5%
役員借入金2,000万円を足して見る:実質の自己資本2,500万円=比率25%

ただし条件があります。貸借対照表で「役員借入金」という独立した科目になっていることです。

やることは、決算書と月次の試算表で科目を分けてもらうよう顧問税理士に頼むだけです。中身は1円も変わらないのに、銀行から見た会社の姿が変わります。

ポイント2:その残高は、額面のまま相続財産になる

社長が会社に貸したお金は、社長の側から見れば会社に対する債権、つまり財産です。社長が亡くなれば相続財産に入ります。

評価の方法は国税庁の財産評価基本通達204に定めがあり、元本の価額は「その返済されるべき金額」とされています。帳簿に残っている残高が、そのまま評価額になります。

「赤字続きで債務超過だから、返せる見込みはない。
価値はないはずだ」という疑問がよく出ます。
回収できない債権を減らす定め(同通達205)はありますが、挙げられているのは取引停止処分・会社更生・民事再生・特別清算・破産の開始、事業の廃止や6か月以上の休業といった状態です。
赤字や債務超過だけでは当てはまりません。

金額にするとどうなるか。法定相続人が配偶者と子2人、役員借入金以外の財産が1億円の社長で計算します。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」なので、4,800万円です。

課税遺産総額相続税の総額
役員借入金なし5,200万円630万円
役員借入金3,000万円あり8,200万円1,135万円
差505万円

配偶者の税額軽減などを使う前の総額での比較ですが、方向は変わりません。問題は、この505万円に見合う現金が入ってこないことです。会社に返す力がなければ、紙の上の財産に税金だけがかかります。

ポイント3:減らすなら「順番」と「副作用」を先に決める

残高を減らす方法は主に3つあり、それぞれ副作用が違います。

1会社が現金で返す

いちばん素直ですが、会社の手元資金が減ります。当社では手元資金の目安を固定費の6か月分に置いています。この水準を割ってまで社長への返済を優先するのは、順番が逆です。

2役員報酬を見直して、差額を返済に回す

社長が受け取る総額を大きく変えずに、内訳を報酬から返済へ振り替える形です。役員報酬の改定時期には法人税法上の決まりがあり、期の途中で自由には動かせません。必ず顧問税理士と設計してください。

3社長が債権を放棄する

残高は消えますが、会社に債務免除益という利益が立ちます。繰越欠損金が足りなければ法人税がかかり、ほかに株主がいれば贈与の論点も出ます。税務判断そのものなので、専門家の設計なしに実行しないでください。

あまり知られていないのが、銀行評価への影響が方法によって逆になることです。

現金で返す:負債は減るが、その分だけ実質の自己資本も減る
債権を放棄する:負債の減った分が利益になるので、実質の自己資本は基本的に維持される

融資を受けたい時期に急いで返すのは、銀行から見た体力を自分で削ることになりかねません。

まとめ:まず残高と科目を確かめる

  1. 01
    決算書で残高と科目を確かめる役員借入金がいくらあり、独立した科目になっているか。社長本人が即答できない会社は多いです。
  2. 02
    会社の手元資金と資金需要を確かめる固定費6か月分を割ってまで返さない。融資の予定がある時期は急がない。
  3. 03
    相続の全体像を見て、方法とペースを決める返済・報酬の見直し・債権放棄のどれを使うかは、顧問税理士と設計する。

相続税の計算は、法定相続人3人・ほかの財産1億円の仮設例で、配偶者の税額軽減などを適用する前の総額です。根拠:国税庁 財産評価基本通達204・205、タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」・No.4155「相続税の税率」(令和8年4月1日現在法令等)。役員報酬の改定、債務免除益、贈与の扱いは税務判断のため、顧問税理士にご確認ください。「手元資金=固定費の6か月分」は当社の財務基準です。

決算書から役員借入金の残高と科目を確かめ、銀行への見せ方と、返済・報酬見直しのどれをどの順で使うかを一緒に整理します。相続まで含めた全体設計は、顧問税理士と連携して進めます。

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