最低賃金の改定や人手不足で、毎年のように賃上げの判断を迫られます。そのとき「1万円上げたら、会社の負担はいくら増えるのか」を即答できる経営者は少ないです。給与の1万円に加えて、社会保険料の会社負担が連動して増えるからです。
この記事では、月給1万円の賃上げで会社負担がいくら増えるかを、令和8年度(2026年度)の料率で計算します。あわせて、健康保険・厚生年金が「等級表」で決まるために起きる、少し不思議な現象も説明します。
結論:月1万円の賃上げは、会社負担で月約1.15万円
社会保険料の会社負担は、東京都・40歳未満・事務系の業種で給与の約15.3%です(内訳は1人雇うといくらかの記事)。1万円の賃上げに対する会社負担の増加は次のようになります。
| 項目 | 月額の増加 | 年額の増加 |
|---|---|---|
| 給与 | 10,000円 | 120,000円 |
| 健康保険(会社負担4.925%) | 約493円 | 約5,900円 |
| 厚生年金(会社負担9.15%) | 915円 | 10,980円 |
| 子ども・子育て支援金(0.115%) | 約12円 | 約140円 |
| 雇用保険(0.85%)・労災保険(0.3%) | 115円 | 1,380円 |
| 合計 | 約11,535円 | 約13.8万円 |
賞与を月給の2か月分で払っている会社なら、賞与も2万円増え、その社会保険料も乗ります。1万円の賃上げ=年約16万円の負担増と見ておくと、10人の会社で年160万円。粗利がそれだけ増える見込みがあるか、が賃上げの原資の問いになります。
ただし健康保険・厚生年金は「等級」で決まる
ここで少し不思議なことが起きます。健康保険と厚生年金の保険料は、給与そのものではなく「標準報酬月額」という等級表に当てはめた額に料率をかけて計算します。等級は原則2万円刻み(月給29万円以上の帯)で、たとえば「27万円以上29万円未満」なら標準報酬月額は28万円です。
つまり、同じ1万円の賃上げでも、社会保険料の増え方は「ゼロ」か「2万円分」かのどちらかです。全社員の賃上げ額を決めるときに、等級の境目を意識して基本給を置くと、会社負担が数千円単位で変わります。
いつから保険料が変わるか──随時改定の3つの条件
賃上げをしても、保険料はすぐには変わりません。年に1回、4〜6月の給与で決め直す「定時決定」(9月分から適用)が基本で、年の途中で変わるのは「随時改定」の条件を満たしたときだけです。
- 01固定的な賃金が変わった基本給や固定の手当が上がった・下がった。残業代の増減だけでは対象になりません。
- 02変動後3か月の平均で、等級が2つ以上動いた1等級の差では改定されず、次の定時決定まで待ちます。上の例の28万円→30万円は1等級差なので、随時改定にはなりません。
- 033か月とも支払基礎日数が17日以上欠勤が多い月が混ざると対象外になります。
3つそろうと、変動した月から4か月目の保険料から新しい等級になります。「4月に賃上げしたのに、保険料が変わったのは9月分だった」というのは、随時改定の条件に当たらず定時決定を待ったからです。
賃上げ原資の見積り方
基本給が上がると、残業の割増賃金の単価も自動的に上がります。残業が多い会社では、この分が意外に大きい。最低賃金の改定に合わせた賃上げなら、最低賃金2026年度改定の記事で、波及分・割増分まで含めた計算の順番を書いています。
- まず「1万円×人数×12×1.15」で総額を出す
- 賞与の支給月数分を足す
- 残業時間×単価の上昇分を足す
- その合計を、粗利の増加(値上げ・客数・粗利率)で賄えるか確かめる
料率の出典:全国健康保険協会「令和8年度 都道府県単位保険料率」(東京9.85%、子ども・子育て支援金0.23%)、厚生年金保険料率18.3%、厚生労働省「令和8年度 雇用保険料率」(一般の事業 事業主負担8.5/1,000)、労災保険率はその他の各種事業3/1,000。標準報酬月額の等級・随時改定の要件は日本年金機構の案内に基づきます。数値は2026年9月時点。
「全員1万円上げたら、いくら増えるのか」。給与台帳から等級の境目を見て、会社負担の総額と、それを賄う粗利の目標を一緒に出します。関連会社の社労士事務所と連携し、手続きまで対応します。
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