「在庫は資産だから、売れるまで持っていても損はしない」と思っていませんか。帳簿の上ではそのとおりです。ところが実際の決算では、在庫を多く抱えた期ほど利益が大きく出て、税金も増えます。
通帳は減っているのに納税額は増える。抜け道でも顧問税理士の腕の問題でもなく、会計のルールがそう作られているからです。この記事では、在庫と利益と税金の関係を3つのカラクリに分けて説明します。
カラクリ1:在庫は費用にならない。だから現金が減って利益が増える
最初に、式を1本だけ押さえてください。
当期に払った仕入代金のうち、費用になるのは「売れた分だけ」です。売れ残った分は資産として翌期に持ち越されます。
期首在庫がゼロの会社が、当期に3,000万円を仕入れたとします。そのうち原価2,000万円分が売れて売上は2,800万円、期末に1,000万円分が残りました。
この1,000万円の開きが、そのまま期末在庫の金額です。利益が出ればそこに法人税等がかかります。仮に負担を3割とすれば、売れ残った1,000万円の分だけで300万円ほどの税金が前倒しで発生します。税率は会社の区分や所得で変わるので、実額は顧問税理士にご確認ください。
費用が消えたわけではなく、売れた期に立ちます。計上が先送りされているだけです。ただし、現金は今期すでに出ています(黒字なのにお金が残らない理由)。
カラクリ2:製造業は、工場の固定費まで在庫に乗る
在庫に乗るのは材料費だけではありません。工場の家賃、工場で働く人の人件費、工場設備の減価償却費も製品の原価に含まれ、売れ残れば在庫と一緒に資産に残ります。分かれ目は「どこで発生したか」です。
- 工場の家賃──製造原価。売れ残れば在庫に乗り、翌期に繰り延べられる
- 本社の家賃──販売費及び一般管理費。全額が当期の費用で、在庫には乗らない
例で見ます。材料費は1個600円、工場の固定費は40万円。販売は800個・1個1,500円で、売上は120万円です。
| 1,000個作った | 800個だけ作った | |
|---|---|---|
| 製造原価 | 材料60万+固定費40万=100万円(1個1,000円) | 材料48万+固定費40万=88万円(1個1,100円) |
| 売上原価(800個分) | 80万円 | 88万円 |
| 営業利益 | 40万円 | 32万円 |
| 期末在庫 | 200個×1,000円=20万円 | 0円 |
200個を余計に作っただけで、営業利益が8万円増えました。売上は1円も変わっていません。増えた8万円は、売れ残った200個に乗ったまま資産に居残った工場の固定費(200個×400円)です。
その一方で、現金は材料費12万円(200個×600円)を余計に払っています。現金を12万円出して利益を8万円増やし、そこに税金がかかる。固定費の比率が高い会社ほど、この振れ幅は大きくなります。
カラクリ3:「不良在庫だから評価を落とす」は、税務では原則通らない
「売れない在庫の評価を下げて損にすればいい」と考えた方も多いはずです。ところが、これは原則としてできません。
法人税法は、棚卸資産の評価損を損金にできる場合を限定しています(法人税法第33条第2項、同施行令第68条第1項第1号)。認められるのは、災害で著しく損傷した、著しく陳腐化した、これらに準ずる特別の事実がある、のいずれかです。
- 著しく陳腐化した例──季節商品の売れ残りで、今後は通常の価額で売れないことが過去の実績から明らか。性能や品質が大きく違う新製品が出て、従来の方法では売れなくなった(法人税基本通達9-1-4)
- 準ずる特別の事実──破損、型崩れ、たなざらし、品質変化など(同9-1-5)
実際に廃棄すれば廃棄損として処理する道はありますが、いつ・何を・どれだけ処分したかを説明できる記録が要ります。自社の在庫が要件に当たるかは、顧問税理士の判断領域です。決算直前に落とせる前提で、資金繰りの計画を立てないでください。
在庫を減らす目的は、節税ではなく現金を戻すこと
混同しやすい点を1つ。在庫で増えるのは法人税等であって、消費税ではありません。消費税は「課税仕入れを行った日」に控除の対象になります(消費税法基本通達11-3-1)。在庫のまま残っていても、仕入れた課税期間で控除できます。
在庫の金額は、決算期末ではなく、発注ロットや生産計画を決めた時点で決まっています。期末に慌てても動かせる範囲はわずかです。
- 01直近1年で一度も動いていない在庫の金額を出す品目ごとでなくてよい。まず総額をつかむ。
- 02その金額が固定費の何か月分かを出す当社の目安は手元資金=固定費の6か月分。動かない在庫が2か月分あれば、その分だけ目標から遠い。
- 03来期の発注と処分の時期を、資金繰り表と突き合わせて決める在庫は、減らせば現金に戻る資産です。
数値例はすべて仮設例です。「仮に負担を3割」は説明のための仮定で、実際の税率は会社の区分・所得・地方税で変わります。根拠:法人税法第33条第2項、法人税法施行令第68条第1項第1号、法人税基本通達9-1-4・9-1-5・9-1-6、消費税法基本通達11-3-1(いずれも原文確認)。個別の在庫が評価損の要件に当たるかは、顧問税理士にご確認ください。
製造原価報告書から「在庫に乗っている固定費」を割り出し、在庫が利益と資金繰りに与えている影響を数字にします。発注・生産ロットの見直しと手元資金の目標設定まで、一緒に整理します。
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