お問い合わせ
財務 × 決算書

粉飾と「作り込み」を分ける一線──銀行が必ず気づく3つのサイン

2026年9月10日荒井 成也(財務コンサルタント)

「粉飾決算」と聞いて、自分には関係のない話だと思っていませんか。報道で見るような大規模な不正は、中小企業の日常とは縁遠いものです。ところが実際の融資の現場で、銀行が「この決算書は危ない」と判断する場面の多くは、意図的な不正ではありません。経営者に悪気はなく、顧問税理士からも特に何も言われなかった処理が、銀行の目には粉飾と同じ形に映っている。そういうケースです。

以前、決算書の見せ方を変えるだけで融資評価は変わるという記事を書きました。あれは、事実は変えずに分類だけを正しく直す話でした。今回はその裏側、どこからが越えてはいけない線なのかを整理します。線引きははっきりしています。

事実の「分類」を変えるのが作り込みで、事実「そのもの」を変えるのが粉飾です。

サイン1:売れない在庫を落とさないだけで、利益は膨らむ

在庫は貸借対照表に資産として残っている限り、費用になりません。売上原価は「期首在庫+当期仕入-期末在庫」で計算しますから、期末在庫が大きいほど売上原価は小さくなり、粗利は自動的に増えます。

ここで多いのが、悪気のないパターンです。3年前から一度も動いていない商品、型落ちした部品、受注が消えたまま止まっている仕掛品。捨てていないから帳簿に残っている、それだけの理由で資産に計上され続けています。

銀行はここを、棚卸資産回転日数で見ます。在庫が何日分あるかを示す数字で、棚卸資産を「年間売上原価÷365」で割って計算します。

年間売上原価3億円・期末在庫3,000万円 → 回転日数 36.5日
翌期、売上原価が2億8,000万円に減ったのに在庫が4,500万円に増えた → 回転日数 58.7日(22日の悪化)

売上が伸びていないのに在庫だけ増えている。粗利率は改善したのに在庫の回転は悪化している。この2つが並んだとき、銀行は必ず理由を聞きます。売上と在庫は連動するのが原則なので、連動していない決算書は説明を求められる、と考えてください。

やるべきことは単純です。決算期末を迎える前に動かない在庫を洗い出し、評価減や廃棄で落としておくことです。利益は減ります。ただ、それが本当の実力です。

サイン2:回収できない売掛金を、資産のまま置いていないか

理屈は在庫とまったく同じです。落とさなければ資産のまま残り、対応する売上と利益も帳簿に残り続けます。2年前に納品したが先方が支払ってくれない、催促しづらくて請求書も止まっている、けれど帳簿からは消していない。よくある話です。

銀行が見るのは売上債権回転日数です。売掛金を回収するのに何日かかっているかを示す数字で、売上債権を「年間売上高÷365」で割って計算します。年商3億円の会社なら、売掛金3,700万円で約45日、7,400万円なら約90日です。

同業他社が45日前後で回っているなかで自社だけが90日を超えていれば、銀行は「回収できていない売上が滞留している」と見ます。

重要なのはその先です。
銀行は回収見込みの薄い売掛金を無価値な資産とみなし、自己資本から差し引いた実質的な貸借対照表に組み替えたうえで格付けを決めます。
中身の説明がつかない仮払金や、返済計画のない社長への貸付金も同じ扱いです。
落とさずに置いておいても評価は上がりません。
「自社の実態を把握していない会社」という印象だけが残ります。

サイン3:利益は動かせても、現金は動かせない

銀行がいちばん重く見るのがここです。会計上の利益は伝票で作れても、預金口座の残高は作れません。売上を1,000万円水増しした場合、決算書はこう変わります。

実態売上を1,000万円水増し
売上高1,000万円2,000万円
営業利益▲200万円800万円
営業キャッシュフロー▲200万円▲200万円

営業キャッシュフローは、本業でどれだけ現金が増えたかを示す数字です。架空の売上は入金を伴わないので、営業キャッシュフローは1円も動きません。損益計算書だけが黒字になり、現金は出ていったままです。

黒字なのに営業キャッシュフローがマイナス。この状態が2期、3期と続けば、銀行は理由を確認します。そして単年では判断しません。3期から5期を並べ、勘定科目の推移を追います。

手間もリスクも負って、評価は1点も上がらない

もう一度、線を引き直します。事実の分類を変えているのか、事実そのものを変えているのか。ここだけです。

決算賞与や固定資産の除却損を特別損失に振り分けるのは、支払った事実は一切変えずに置き場所を正しくする作業です。本業の稼ぐ力を示す営業利益は上がりますが、税引前利益は変わりません。銀行に対しても税務に対しても、説明のつく処理です。

一方、売れない在庫を資産に残す、回収できない売掛金を落とさない、これは事実そのものに手をつけています。銀行を欺いて融資を受けたと判断されれば、詐欺罪に問われる可能性もあります。「顧問税理士が大丈夫と言った」は理由になりません。決算書に署名するのは経営者です。

ただ、実務でいちばんもったいないのは別のところにあります。この処理は、そもそも効きません。銀行は実質的な貸借対照表に組み替えて評価するので、水増しした在庫も落とさない売掛金も、結局は差し引かれます。手間とリスクだけを負って、格付けは1点も上がらないということです。

まずは2つの数字を出してみてください。1年以上動いていない在庫の金額と、6か月以上入金のない売掛金の金額です。この合計が、いまの決算書と会社の実力との差になります。

差がわかれば、次の決算で何をどこまで落とすかを、銀行に説明できる形で決められます。不良在庫の評価損や貸倒損失の税務上の扱いは、顧問税理士にご確認ください。

本文の回転日数・水増しの例はいずれも説明用の仮の数値です。「同業他社が45日前後」は業種で大きく異なるため、条件付きの言い回しにしています。

不良在庫や回収不能な売掛金を落としたときの決算着地と格付けへの影響、実質的な貸借対照表への組み替え、営業利益を守る特別損失の使い方、銀行への説明の組み立てをお手伝いします。
初回相談は無料です。

無料相談を申し込む