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財務 × 与信管理

取引先の倒産から会社を守る、3つの備え

2026年9月10日荒井 成也(財務コンサルタント)

「取引先が倒産して売掛金が飛ぶ」というのは、うちには関係のない話だと思っていませんか。自社は黒字で、借入もきちんと返せている。そういう会社ほど、この話を他人事として聞きます。ところが、連鎖倒産で消えていく会社の多くは、その直前まで黒字でした。自社の経営が健全であることと、取引先が倒れないことは、まったく別の話です。

帝国データバンクの集計では、2026年上半期(1〜6月)の全国企業倒産は5,335件で、前年同期の5,003件から6.6%増え、4年連続で前年を上回りました(2026年7月8日発表)。

人手不足を理由とする倒産は227件、物価高によるものは556件で、いずれも上半期として過去最多です。直近の2026年8月単月も827件で、前年同月比10.1%増でした(2026年9月8日発表)。取引先が倒れる確率そのものが上がっている、ということです。

連鎖倒産への備えとして「共済と手元資金」は別の記事で書きました。今回は、その前段にある与信管理――取引先ごとにいくらまで売掛金を抱えるか――を中心に、3つの備えを整理します。

備え1:異変は決算書より先に「支払い」に出る

中小企業の場合、取引先の決算書を毎年もらえることはまずありません。判断材料は日々の取引そのものです。そして資金繰りが苦しくなった会社は、決算書ができるずっと前に、支払いの現場で必ず動きを見せます。

とくに危険なのは、支払条件の変更を持ちかけられたときです。相手にとっては「お願い」ですが、こちらから見れば、その会社が手元の現金で払えなくなっていることの表明です。ここで条件を付けずに応じると、焦げる金額を自分から増やすことになります。

取引先の決算書が手に入るなら、見る場所は3つです。売上債権回転日数(売上債権÷〈年間売上高÷365〉)が同業他社より突出して長くないか。売上が伸びていないのに在庫だけが増えていないか。

黒字なのに営業キャッシュフローがマイナスの期が続いていないか。利益は伝票で作れますが、現金の動きは作れません(粉飾と作り込みを分ける一線)。

備え2:1社あたりの売掛金は「焦げても死なない額」で止める

売掛金が回収できなくなったときの痛みは、金額そのものではなく、それを利益で埋め直すのに必要な売上の大きさで測ります。

粗利率20%の会社で500万円が焦げる → 取り返すのに必要な売上 = 500万円 ÷ 20% = 2,500万円

年商1億円の会社なら、1年の4分の1をその1社の穴埋めのために働くことになります。営業を1件増やして解決する話ではありません。

ですから、与信限度額(1社に対して認める売掛金の上限)は次の基準で決めてください。その金額が全額焦げたとき、手元の現金が固定費の6か月分を割り込まないか。手元資金を固定費の6か月分確保するのが当社の基準です。

この線を割る取引は、金額の大小にかかわらず、条件を変えるべき取引です。条件を変えるといっても、取引を断ることだけではありません。

売上を取りにいく前に条件を決める。順番が逆になった取引が、あとで一番高くつきます。

備え3:焦げたときの資金の出口を、焦げる前に用意する

取引先が倒産した直後にあわてて銀行に駆け込んでも、その融資はまず間に合いません。銀行は「取引先が倒れて売掛金が回収できない」という事実を、自社の信用力の低下として受け止めます。一番借りたいときが、一番借りにくいときです。

そこで使えるのが、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。取引先が倒産して売掛金などが回収困難になったときに、共済金の貸付を受けられる制度で、中小機構が運営しています。公表されている条件は次のとおりです。

見落とされがちなのが、貸付の枠は「掛金総額の10倍」だという点です。
8,000万円の枠を持つには800万円を積み終えている必要があり、月額20万円で積んでも40か月かかります。
備えは、積んだ月数の分しか効きません。
また、この制度が使えるのは取引先の「倒産」という事実があるときだけで、相手が倒れないまま支払いを止めている支払遅延には使えません。
最後に効くのは手元の現金です。

掛金の税務上の取り扱いや解約時の課税は会社ごとに判断が変わりますので、実行前に顧問税理士にご確認ください。

与信管理は営業へのブレーキではなく、取引条件の設計

3つの備えに共通しているのは、「売上を上げたあと」ではなく「売上を立てる前」に手を打っている点です。支払いの変化に気づくのは請求書を出す前、与信限度額を決めるのは受注する前、共済に入るのは取引先が倒れる前。どれも、事が起きてからでは間に合いません。

まずは、売掛金の残高を取引先ごとに並べてみてください。上位1社の残高がいくらで、それが全額焦げたときに手元の現金がいくら残るか。この2つの数字を出すだけで、いま条件を変えるべき取引先が浮かび上がります。

出典:帝国データバンク「倒産集計 2026年上半期報」(2026年7月8日)、「倒産集計 2026年8月報」(2026年9月8日)/中小機構 共済サポートnavi「共済金の借入条件」「経営セーフティ共済の掛金」。倒産統計は毎月更新されます。

取引先ごとの売掛金残高と与信限度額の設計、回収条件の見直し、経営セーフティ共済の枠の試算、取引先が倒れたときの資金繰り表の作り方をお手伝いします。
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