「利益が800万円を超えたら法人成り」と聞いたことがあるかもしれません。税率だけを比べれば、たしかにそのあたりで法人が有利になり始めます。ただ、社会保険料と管理の手間を入れると、答えは人によって大きく変わります。
この記事では、法人成りを判断する4つの物差しを、令和8年分の数字で整理します。1つの数字で決めず、自分の条件で比べるための材料です。
物差し1:税率の差──個人は所得が増えるほど上がる
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。法人税は、中小法人なら所得800万円までは15%で一定です。
| 個人の所得税(課税所得) | 税率 | 法人税(中小法人・所得) | 税率 |
|---|---|---|---|
| 330万円〜695万円未満 | 20% | 800万円以下の部分 | 15% |
| 695万円〜900万円未満 | 23% | ||
| 900万円〜1,800万円未満 | 33% | 800万円超の部分 | 23.2% |
個人には別に住民税(所得割10%)がかかり、法人にも地方の税がかかります。表は国の税率だけなので、実際の負担はもう少し重くなります。
もう1つ大きいのが、法人から自分に役員報酬を払うと、給与所得控除が使えることです。令和8年分は最低でも74万円、収入が増えるほど大きくなります。同じお金でも、「事業の利益」として受け取るより「給与」として受け取る方が、課税される所得が小さくなります。
物差し2:社会保険──社長1人でも入る
法人の事業所は、社長1人だけでも健康保険と厚生年金の強制適用です。個人事業なら、国民健康保険と国民年金のままでよい人が多いはずです。
税金が減っても、社会保険料の増え方がそれを上回ることはよくあります。法人成りの損得は、税と社会保険料を合わせた「手取り」で比べます(役員報酬の正解はいくらか)。
物差し3:消費税──インボイスに登録すると免税は使えない
資本金1,000万円未満で設立した法人は、基準期間がない1期目・2期目は原則として消費税が免除されます。個人事業のときの売上は、新しい法人の基準期間には入りません。
- 2期目に課税になる場合──1期目の最初の6か月で、課税売上と給与の支払額がどちらも1,000万円を超えたとき
- インボイスに登録した場合──1期目から課税事業者。取引先が会社中心で登録が必要なら、免税の効果はない
物差し4:手間と固定の費用──赤字でもかかる
- 住民税の均等割──利益がなくてもかかる(東京23区で資本金等1,000万円以下・従業員50人以下なら年7万円)
- 決算・申告の費用──法人の決算と申告は、個人の確定申告より手間がかかり、税理士報酬も上がるのが普通
- 社会保険と給与の手続き──役員報酬の源泉徴収、社会保険の届出、年末調整などが毎年発生する
- 設立とやめるときの費用──登記の費用。会社をたたむときも手続きと費用がかかる
一方で、法人には取引先や金融機関からの信用、採用のしやすさ、事業承継のしやすさといった、数字に出にくい利点もあります。
まとめ:確かめる順番
- 01利益が安定して出ているか1年だけ大きく出た利益で決めない。2〜3年の推移と来期の見込みで見る。
- 02税と社会保険料を合わせた手取りで比べる役員報酬の額を何通りか置いて、個人のままと比べる。家族構成と年齢で結果が変わる。
- 03取引先にインボイスが必要かを確かめる必要なら、消費税の免税は前提にしない。
- 04赤字でもかかる費用を年額で出す均等割・税理士報酬・手続きの手間。これを上回る効果があるかを見る。
税率は国税庁タックスアンサーNo.2260(所得税の税率)・No.5759(法人税の税率)、給与所得控除はNo.1410(令和8年分)、新設法人の納税義務はNo.6503・6531、社会保険の適用は日本年金機構、保険料率は全国健康保険協会東京支部(令和8年度)によります(いずれも2026年10月7日確認)。法人税の軽減税率15%は令和9年3月31日までに開始する事業年度の措置です。均等割の額は事務所の所在地で変わります。個別の税額の試算は、顧問税理士にご確認ください。
今の利益と家族構成から、役員報酬の額ごとに「個人のまま」と「法人成り」の手取りを並べて比べます。社会保険の手続きは、関連会社の社会保険労務士が担当します。
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