「売上を伸ばしたい」と考えたとき、多くの会社は客数を増やす方から考えます。新規開拓、広告、営業の増員。ところが利益で比べると、同じ売上の伸びでも単価を上げる方がはるかに大きく効きます。
理由は単純で、客数を増やすと仕入や材料も一緒に増えますが、単価を上げても仕入は増えないからです。この記事では、その差を数字で確かめ、値上げで客がどこまで減っても大丈夫かを出す式と、単価を上げる具体的な打ち手を書きます。
同じ「売上5%増」でも、利益の増え方がまるで違う
売上1億円、仕入・材料・外注などの変動費が7,000万円(粗利率30%)、人件費や家賃などの固定費が2,700万円、営業利益300万円の会社で考えます。
| 今 | 客数を5%増やす | 単価を5%上げる | |
|---|---|---|---|
| 売上 | 1億円 | 1億500万円 | 1億500万円 |
| 変動費 | 7,000万円 | 7,350万円 | 7,000万円 |
| 粗利 | 3,000万円 | 3,150万円 | 3,500万円 |
| 固定費 | 2,700万円 | 2,700万円 | 2,700万円 |
| 営業利益 | 300万円 | 450万円(1.5倍) | 800万円(約2.7倍) |
単価を上げた分は、変動費が増えないのでそのまま粗利になります。客数を増やした場合は、増えた売上の7割が仕入に消えます。しかもこの表は、客数が増えても固定費が変わらない前提です。実際には、客が増えれば人手や配送、事務の手間も増え、450万円も残らないことが多いはずです。
値上げで、客はどこまで減っても大丈夫か
値上げをためらう理由のほとんどは「客が離れるのが怖い」です。そこで、粗利が値上げ前と同じになる客数の減り幅を出しておきます。
粗利率30%の会社が5%値上げすると、5÷(30+5)=約14.3%。客数が14%減っても、粗利は値上げ前の3,000万円のままです。減り方がそれより小さければ、利益は増えます。しかも客数が減った分、現場の手間は軽くなります。
逆に、5%値引きすると客数を何%増やせばよいか
同じ式を値引きに当てると、怖さがよく分かります。
「少し値引きすれば受注が取れる」は、粗利で見ると割に合わないことがほとんどです。客数を2割増やせば、その分の人手と手間もかかります。
単価を上げる5つの打ち手
値上げといっても、定価を一律に上げるだけではありません。値引きをやめる、取引条件を変える、売り方を変える、も単価を上げる手段です。
現場の判断で値引きできる状態だと、単価は少しずつ下がっていきます。値引きは社長の決裁にし、毎月の値引き額の合計を出すだけで、単価の目減りが止まります。
最低受注額、小口の手数料、特急料金、出張費。手間がかかる注文ほど安くなっていないかを見ます。料金表に書くだけで、黙ってかぶっていた手間が粗利に変わります。
標準の上に手厚い版を、下に簡易版を置くと、真ん中が選ばれやすくなります。一番売りたいものを真ん中に置きます。
無料でやっていたアフターフォローや相談対応を、有料の保守や追加メニューとして出します。いきなり有料にしにくければ、新規の取引から始めます。
売上の大きい取引先が、値引きと手間で一番粗利が薄い、ということはよくあります。粗利の低い順に並べ、単価を見直すか、条件を変えるか、取引の比重を下げるかを決めます。
値上げの伝え方
- 理由と時期を文書で伝える──材料費、人件費、最低賃金の改定など、具体的な理由と適用日を、1〜2か月前に書面で(最低賃金2026年度改定への備え)
- 中身を削って価格を据え置かない──量や品質を落とす方が、値上げより客離れを招きます
- 取適法の対象となる取引の受託側なら、協議を申し入れてよい──2026年1月1日施行の取適法(旧下請法)で、発注側が「協議に応じない一方的な代金決定」をすることは禁止されました。原価の上昇を数字で示して、価格の協議を申し入れます
まとめ:利益を増やす順番は、固定費・粗利・客数
- 01自社の粗利率で「客が減ってもよい割合」を出す値上げ率÷(粗利率+値上げ率)。思っていたより大きいはずです。
- 02取引先別・商品別の粗利を並べるどこから単価を見直すかが決まります。
- 03値引きの決裁と料金表から手をつける定価を変える前に、すぐできる打ち手があります。
客数を増やすのは、その後です(赤字を黒字化する正しい順番)。単価が上がった状態で客数を増やせば、増えた客の1人ひとりが厚い粗利を連れてきます。
数値例は仮設例です。「粗利率」は売上から仕入・材料・外注などの変動費を引いた率(限界利益率)で計算しています。製造業で決算書の売上総利益に工場の固定費が入っている場合は、変動費だけを引いて計算し直してください。取適法の内容は公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」によります。
決算書と売上の明細から、取引先別・商品別の粗利を並べ、値上げで客が減ってもよい割合を自社の数字で出します。どこから単価を見直すかを、一緒に決めます。
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