「評価制度を入れたが、2年で使わなくなった」という話をよく聞きます。原因の多くは、評価項目から作り始めたことです。評価をすれば昇給の期待が生まれ、その合計が会社の払える額を超え、結局「今年は据え置き」で制度が形だけになります。
当社が中小企業の人事評価制度を作るときは、逆の順番で進めます。粗利から人件費の上限を決め、賃金テーブルに落とし、最後に評価項目を決める。この記事では、その順番と、運用が続くための5つの設計を書きます。
順番1:人件費の上限を粗利から決める
会社が払える人件費の上限は、決算書から出ます。当社の基準は「粗利の10%を経常利益で残す」です。粗利から、目標経常利益と、人件費以外の固定費(家賃・光熱費・減価償却など)を引いた残りが、総額人件費の上限になります。
この総額人件費には、給与・賞与のほか、社会保険料の会社負担(約15%)と採用・教育費が含まれます。来期の粗利の見込みからこの上限を出し、今の総額人件費との差が「来期に昇給と採用に使える原資」です。
原資が小さいなら、評価制度の前に粗利を増やす手(赤字を黒字化する順番)を打つ必要があります。
順番2:賃金テーブルを作る(等級×号俸)
次に、基本給の表を作ります。縦に等級(役割の大きさ:一般・中堅・リーダー・管理職など3〜5段階)、横に号俸(同じ等級の中の刻み)。1つの号俸の刻みは3,000〜5,000円程度が中小企業では扱いやすいです。
作るときに必ず通す検算が2つあります。
- 最低賃金の検算:(基本給+最低賃金に算入する定額手当)÷ 月の所定労働時間 ≧ 地域の最低賃金。所定労働時間は年間の実値÷12で計算し、表示上の丸めた時間で割らない。固定残業代は除いて計算する。最も低い等級・号俸がここを下回らないよう、テーブルの下端を決める
- 助成金の検算:キャリアアップ助成金(正社員化コース)を使うなら、転換後の賃金総額(基本給+定額手当)が転換前より3%以上増えている必要がある。基本給だけを3%上げると、据え置きの手当で薄まって総額が3%に届かないことがある。手当を含めた総額で検算する
順番3:評価と昇給の対応表を作る
ここで初めて評価の話です。評価結果を「S・A・B・C・D」の5段階にし、それぞれの昇給号俸数を決めます。たとえばS=3号俸、A=2、B=1、C=0、D=0。
人数の分布を仮に置いて(Bが最も多い前提で)昇給の合計を出し、順番1の原資に収まることを確かめます。収まらなければ、号俸の刻みか昇給号俸数を調整します。
この対応表があると、社員に「A評価なら来年いくらになるか」を説明できます。評価制度が続くかどうかは、この説明ができるかどうかにかかっています。
順番4:評価項目は少なく、行動で書く
評価項目は等級ごとに3〜5個で十分です。「積極性」「協調性」のような性格の言葉は避け、「月次の報告を期日までに出す」「新人に手順を教えて任せられる状態にする」のように、行動で書きます。評価者が変わっても同じ点がつくこと、本人が何をすれば上がるかわかること、の2つが条件です。
順番5:運用の型を決める
- 01期初に目標を紙に残す等級ごとの評価項目に沿って、本人と上司で3つ以内に絞る。
- 02半期に1回、面談する途中経過の確認。ここで評価の「サプライズ」をなくす。
- 03期末に評価し、対応表で昇給を決める評価者会議で甘辛をならす。昇給の合計を原資と照合する。
- 04新年度の賃金テーブルを最低賃金で再検算する10月の最低賃金改定で下端が割れていないかを毎年確かめる。
よくある失敗
- 評価を賞与に直結させて、賞与が固定費になる──業績が悪い年にも「評価がAだから」と賞与を減らせなくなる。賞与の総額は業績で決め、配分に評価を使う(賞与と月給の役割分担)
- テーブルを作ったあとで最低賃金が改定され、下端が割れる──毎年10月の改定を見込んで、下端に余裕を持たせる(最低賃金2026年度改定)
- 評価項目が10個以上あり、評価者が付けきれない──3〜5個に絞る
- 人件費の総額を見ずに昇給を約束する──順番1に戻る
人事評価制度・賃金テーブルの設計は当社(インスパイアHR研究所株式会社)が行い、就業規則・賃金規程への反映と助成金の申請は関連会社の荒井人事労務事務所(社会保険労務士)が担当します。「経常利益=粗利の10%」は当社の財務基準です。最低賃金・助成金の要件は厚生労働省・都道府県労働局の公表で確認してください。
決算書と給与台帳をお持ちください。人件費の上限、賃金テーブルの下端(最低賃金)、来期に使える昇給の原資を、最初の相談で数字にします。
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